2012年度 映画ベストテン

1.桐島、部活やめるってよ
だれにでもそれぞれの事情というものがあります。それにもかかわらず、表面だけで、非リア・リア充に分類し「自分は非リアだ」と、自嘲的な態度で他人に接してしまって後で後悔することがよくあります。これは、非リアがリア充を打ちのめして溜飲を下げる映画ではなく、「非リア・リア充」という概念そのものを、気持ちよくかつ痛みをもって破壊してくれる映画でした。神木君の「どういうわけ?」は今年のベスト台詞です。


2.ドライヴ
こんなに、どこを切り取っても主人公のヒロインに対する愛ばかりを感じる映画はないんじゃないでしょうか。主人公の狂気が立ち上がってきてしまうとこも含めてすべてが愛につながっていくのが切なく、胸が締め付けられました。主人公は、言葉よりも目で語る場面が多く、その目に狂気と不器用さを感じるのですが、ずっと緊張感をもっていた視線がふと宙を泳ぐとき、見ているこちら側も同様に緊張から解放されます。レフン印の映像、音楽もスタイリッシュで最高でした。


3.裏切りのサーカス
初見では細部まで把握しきれなかったけれど、それが気にならないくらいの美しすぎる画づくり、流れるようにつながれるシーンとシーン、終盤で「これ、ラブストーリーだったんだ!」と気付く驚き、ラストに流れるLa Mer、すべてが心地良かった。男の色香がムンムンだった。ラストにカンバーバッチがみせる笑顔には「打ち上げ」の全てが詰まっていると感じました。


4.幸せへのキセキ
すでに起こってしまった悲劇によって、安定を欠いてしまった家族が動物園付きの家を購入し、人生を立て直していく物語。唐突に家を購入してしまうことや、「二十秒のばかけた勇気」という台詞など、自分が自分の人生を送るためには初速度が必要なのだと感じました。あるきっかけから主人公の感情に初速度がついて、文字通り溢れ出したシーンは忘れがたいほど感動的でした。


5.サニー 永遠の仲間たち
なんとなく現実の生活をしていくのに精いっぱいで、忘れてしまっていた過去の輝きを、昔の仲間が集まっていくことで取り戻していく映画。登場人物たちにのしかかる現実は「こんなはずじゃなかった」とすら考えつかないほど重く、若いころに見た夢はもう叶うことは無いかもしれない。しかし、夢をみていたあの感覚は取り戻せるのかもしれないと、感じました。過去の痛みを文字通り抱きしめるシーンも「映画を見てる!」という感じがして良かったです。


6.フランケンウィニー
偶然にも、この映画を見る前日に、死んでしまった実家の犬のアルバムを見直していたのもあってか、ボロボロ泣いてしまった。孤独な少年に対する優しい視線、迫害されながらも信念を貫く科学者、色々な映画へのオマージュを感じさせるキャラクター達。そしてなにより最初と最後の主人公の心境の変化。それらのすべてが愛おしく感じられる映画でした。主題歌を歌ったカレンOは、この映画の「Strange Love」といい、ドラゴンタトゥーの女での「移民の歌」といい、大活躍でした。


7.アタック・ザ・ブロック
貧しい公共団地が舞台になっていて、腐っていくしかない環境にいる主人公の変化が力強い。ベースメント・ジャックスによるグライムのサントラもかっこよくて最高です。登場人物によって部屋の様子も違うなど、団地要素も強い。
「ガキは帰ってNARUTOでも見てろ!」


8.ミッドナイト・イン・パリ
映画の中で雨が降るときというのは、大抵、悲劇的なことが起こったときに降ることが多く、登場人物の悲しみを表しています。この映画の最後でも雨は降り主人公は悲しんでいるのですが、この雨は悲しみだけでなく、同時により明るい可能性をも表している雨であり、それはひとつの人生を失ったけれど、別の人生が始まる瞬間でもありました。


9.プロメテウス
今年、一番盛り上がったのはこの映画でした。謎めいた冒頭から最後までずっと頭が映像に追いつかず、体ごともっていかれました。クリーチャーやメカの造形などワクワクするものばかりで、ものすごい映像でジャンルムービーをやっている感じが最高でした。


10.SHAME
主人公はセックスに依存していて、セックスと恋愛を一緒くたにできない。一人だけの世界で、性欲を文字通り「処理」する日々をすごしていたのだけど、そこに恋愛に依存している妹が転がりこんでくることで、主人公の自己が揺れ動かされていく。映画の中で大事な部分は語られず、生い立ちに何かあったことだけがぼんやりと提示されるだけなので、観客は主人公の痛みを想像するしかないが、表情や視線だけで登場人物の痛みの深さが伝わってきた。映画を見ると、想像し難い人物のことを想像し共感させてくれます。理解など何もしてないかもしれないけど、理解の入り口に立たせてくれた気がしました。


劇場に足を運んだのは77回。劇場で見た新作映画は54本。DVD観賞は新作旧作含めて137本でした。